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タリアセンでのトゥルービュー 2015年6月4日更新

タリアセンでのトゥルービュー(PDF版) 

By: Ryan Hewson, Collection and Preservation Project Manager

1911年、フランク・ロイド・ライトは自身の住まいタリアセンをウィスコンシン州スプリング・グリーンに建てはじめた。
ウェールズ語で「輝く頂」を意味するタリアセンは、荘厳な丘の頂にある。 ウェールズ系の母方の親戚ロイド・ジョーンズ家が所有する周辺の農場で働く十代のライトは、この丘に魅了された。 ライトはタリアセンを自宅兼スタジオとして、そして実際に稼働する農場として設計した。
今日、タリアセン・エステートは合計600エーカーの敷地にライトがデザインした5つの建物と滝を有する。
タリアセン内の建物の継続的保存活動の一環として、ブルー・ロッジアは建物とコレクション保全の観点から20年以上ツアーの立ち入りを禁止してきた。
最近、フランク・ロイド・ライト財団はTPI(タリアセン・プリザベーション・インコーポレーティド)と協力して、ロッジアとそれに隣接する屋外テラスの3年に渡る修復を完了した。 この意義深い修復によって住人と見学者は再びこの特別な場所に入れるようになった。

修復後の「松に桜花と鳥」
スタジオTMK撮影

このプロジェクトの主要な構成要素のひとつは、歴史的価値の高い日本の屏風絵、17世紀の絵師狩野安信流作「松に桜花と鳥」の修復と再展示だった。
フランク・ロイド・ライトの絵画、建築、装飾美術に日本美術が与えた影響については詳しい文献が残されている。
ライトは自身の代表的な住宅設計の多くに日本の屏風や他の東洋美術を組み込んでいるが、日本と中国の絵画が最も豊富に、且つ最も念入りに統合された形で存在するのはタリアセンの中である。
数年前に始まった一連の調査により、タリアセン所蔵の日本と中国の絵画はその状態、外観、潜在寿命について著しく危うい状況にあり、いくつかは飾られた場所から保管庫に移さなければならないことが分かった。 マサチューセッツ州サマービルにあるスタジオTMKの取締役T.K.マクリントックは、フランク・ロイド・ライト財団との長年の関係を祝って、絵画作品の保存作業を無償提供する予定だ。
「松に桜花と鳥」を陳列と来場者から保護するため、マクリントックは作品に有害な紫外線を最大99%カットする上に帯電しにくく傷付きにくく、割れても飛散しないトゥルービュー オプティアム アクリルを推奨した。

完成したインスタレーションの写真
フランク・ロイド・ライド財団ライアン・ヒューソンの好意により掲載

トゥルービューと財団のパートナーシップも手伝って、この連携の結果として、60年間収蔵庫に眠っていた作品が修復され、再び安全に展示された。
この他に8隻の屏風が修復され、トゥルービュー・オプティアム・アクリルの保護フィルターの下に再展示される予定だ。
これら装飾物はタリアセンの歴史的展示物の中で最も重要なものだ。
修復が完了すれば、来場者、学生、研究者はこうした作品を鑑賞したり研究したりすることができる。 作品が人を楽しませるという本来の存在意義を取り戻すのだ。
トゥルービュー・オプティアム・アクリルの反射防止コーティングは、作品と鑑賞者との間の境界を消す。
気になる反射光がないオプティアムなら、ライト邸に相応しい親密さで屏風を鑑賞することが可能だ。
タリアセン自体の環境が独特で難しいため、オリジナルの屏風の展示は長年問題とされてきた。

構造の断面図
フランク・ロイド・ライト財団ライアン・ヒューソンの好意により掲載

絵画の元の形を保ったまま壁に取り付けることができないと分かると、フランク・ロイド・ライトはある設置方策を採用した。
元の形状から分離された折り畳み式の屏風のパネルは、それぞれの間に細長い装飾材を挟むか、全体をパネルから取り外して個別に木製パネルに取り付けられた。
折り畳み式の屏風としてタリアセン中に残るこうしたパネルと絵画は壁に固定され、それらが置かれた部屋全体に使われたのと同一の形状・素材のモールディングを使用することによって視覚的な統一感がもたらされている。
絵画はベニヤ板に貼り込まれた上で直接壁面に取り付けてあったため、伝統的な方法での壁掛けは適さないと見なされた。
元の設置方法では、ライトは1インチ幅のイトスギの角材を6枚のパネルそれぞれの間に配置した。
古い写真は大まかな大きさと見た目を把握するのには役立ったが、作品が実際にどのように架けられていたかについてそこからはほとんど読み取れず、いい加減なものに見えた。
所蔵品と展示のチームは、写真によって1940年代から1950年代にかけてこの空間に飾られていたと確認されたこの屏風をロッジアの修復に使うことに決めた。
古い写真は主にメイナード・パーカーとペドロ・ゲレロによるもので、修復の取り組みを伝えるために使われた。
タリアセンはフランク・ロイド・ライトの私邸であったため、絵画のほとんどは最後に仕上げられ、後世のための記録は行われなかった。
我々が作業に使うべき証拠品の主なものは古い写真、口述証言の記録、そして建物自体に残された物証(仕上げまたは構造)であった。
保存処置の後、絵画は元々付いていたベニヤ板に再び貼り付けられた。保存に値すると思われる微妙な形態の違いがあったためだ。
その上、ライトが使った素材は分割したパネルを壁に設置するために当時入手可能だった素材を代表するものであったし、貼り込みの形式は炭酸カルシウムを添加した紙を使った日本の屏風が持つ伝統的な多層構造で表面を強化することによって「アーカイバル」にすることが可能だった。
作品をカプセルに入れることが決まると、様々なグレージング(アクリルまたはガラス)の組み込み方法が二次元と三次元のコンピューターモデリングによって検討された。
保存チームはスタジオTKMと共同でライトの意図を汲みながら作品自体にも充分な保護を提供する最良のソリューションを見出した。 この設置における最も重要なもののひとつはスタジオTKMが考案して、タリアセンの保存チームがデザインしウィスコンシン州マディソンのカスタムメタルズが製造した特注のZ型クリップである。

カプセル詳細図
フランク・ロイド・ライト財団ライアン・ヒューソンの好意により掲載

2つの図は作品の組み立てに使われた標準的な構成要素とそのサイズの詳細を見せるものである。
既存の壁に歪みがあるために生ずる問題を軽減する目的で、裏側には約9.5mmの空間が加えられた。トゥルービューのアクリルと作品パネルとの空間は約12.7mmとし、来場者や住人がアクリルに直接もたれかかるようなことがあってもアクリルが作品に触れないようにしてある。
この美術館品質の無反射アクリルは、作品を保護しながらライトのインテリアデザインのすばらしさを再び公開することを可能にした最高のソリューションだ。

タリアセン・エステートのマネージャーであるジム・エリクソンは次のように述べた。
「タリアセン・コミュニティのメンバー、及びこのコレクションの存在を知るフランク・ロイド・ライトと日本美術の研究者たちは、常にこれらの作品がタリアセンを理解する上でも、ライトの芸術的視点に与えた影響を理解する上でも重要なものと捉えてきました。 フランク・ロイド・ライトは日本画と浮世絵を初めて収集・研究した人々と、その後の世代の愛好家や目利きとを結び付けた重要な人物でした。」

ライアン・ヒューソン

ライアン・ヒューソンはウィスコンシン州のタリアセンで所蔵品と展示のプロジェクト・マネージャーを務めている。
ウィスコンシンにある芸術品と装飾デザインの監督責任者であり、タリアセンの保存にまつわる取り組みに対する建築学的サポートも提供する。 ヒューソンはタリアセンに8年間滞在し、その内5年間は保存オフィスの一員として働いた。 それ以前にはフランク・ロイド・ライト建築学校で3年間学び、2008年10月に建築学の修士号を取得した。
現在はウィスコンシンで建築免許に取り組んでいる。
タリアセンやフランク・ロイド・ライトに関する更に詳しい情報は www.taliesin.edu 及び www.franklloydwright.orgで参照することができる。

災害の復旧:火災と煤による損傷 2014年12月10日更新

災害の復旧:火災と煤による損傷(PDF版) 

By: Susan Duhl, Art Conservator/Collections Consultant, SusanDuhl@verizon.net

火に関連した災害の結果として生じる問題は複合的である。
化学的な損傷と物理的な損傷が組み合わさり、煤に覆われたり焼け焦げた品物の取り扱いには細心の注意を要する。
熱、炭化、煙、煤、灰、水、そして化学消火器は、どのような種類の素材にも有害な影響を与える。
煤は、黒く油っぽい固形の燃焼残留物で、その60%以上を炭素が占める。
燃焼残留物は粒子が粗く、酸性で、発癌物質を含む。

火災の大きさやその発生源に関わらず、災害訓練とパーソナル・プロテクティブ・エクイップメント(PPE=個人保護装置)は必須である。PPE(個人保護装置)に含まれるべきものは、安全帽、ブーツ、マスク、手袋、安全眼鏡などである。
対策は迅速に行わなければならない。煤はどんどん表面に固着していくし、煤の粒子は湿気と反応して化学的に交差結合して圧縮されていくので、除去が難しくなるからだ。煤は有機物の腐食、点食、変色の原因となる。低酸素でくすぶる火災は湿ってすすけた残留物を作り、その除去は困難である。
高酸素の火災による残留物は乾いていて、比較的除去しやすい。

火災の後、煤に覆われ、湿り、焼け焦げた芸術品を取り扱うには注意が必要である。
煤に覆われた品物に触ったりその上を歩いたりすると、煤の分子がごく微細な粒子に砕かれて、汚染物質や色素が圧縮され、表面に埋め込まれてしまう。
傷んだ構造、弱った接合部、粉々に割れたガラスが二次的なダメージを起こすこともある。
重ねたりぴったり包んだりすると煤の影響を受けた中身が圧縮され、臭気低減の妨げとなる。

相互汚染または再汚染を避けるには、歩行帯を保護し、作業面を清掃し、手袋やツールは頻繁に交換する、また清掃済みのものは汚染されていない保管場所へ置くようにする。
煤は空気処理システムによって、また人や物の移動によって簡単にあちこちにまき散らされる、ということを認識しなければならない。

救出の優先順位は、品物の傷つきやすさに基づいて決定する。
構造が傷ついたアイテムと煤の層が最も厚いものは優先的に処理する。
紙やテキスタイルのように多孔性のもの、繊維質のもの、有機物は特に傷みやすい。
取り扱い、梱包、移動の前段階で掃除機をかけておくと、芸術品の煤を最もうまく除去することができる。
テキスタイルと紙は、できれば折ったり筒状に丸めたりすることを避ける。
どのような素材でも、移動の際には丈夫な支持体が必要となる。

復旧のためのその後のステップには、機械、溶剤、水ベースの清掃が含まれる。
機械による清掃は、煤をこすったり、塗りつけたり、埋め込んだりすることのないような方法で行わなければならない。
溶剤または水による清掃は、煤の油分を溶かしたり、それを芸術品の表面に染み込ませたりすることのないように行う。

段階的な清掃のステップ:

HEPAフィルター内臓で速度調整可能な掃除機で煤を吸い取る。
掃除機は様々な種類と大きさが揃う。長いホースと小型ホース、付け替えアタッチメント、掃除機フィルター、掃除機袋があると便利。
損傷を防ぐために網越しに掃除機をかけても良い。
その場合、網やブラシが煤に覆われた表面に触れることがないようにする。
触れると煤が品物の表面に塗布されたり、埋め込まれたりする。

表面の煤を掃除機で吸い取ったら、隙間や内側の窪みを掃除する。
額装した作品を清掃する場合、中身を取り出す前にまず額縁を掃除する。

粒子状の物質は表面から注意深く吹き落とすこともできる。
その場合は掃除機の弱設定のブローや、圧縮空気缶を利用する。

掃除機をかけた後に「ドライクリーニング」スポンジ(「ケミカル」スポンジや「煤」スポンジとしても知られる、加硫cis-1、4-ポリイソプレン、炭酸カルシウム充填剤)で表面を掃除することもできる。
スポンジは、対象物に合わせて様々な形状と大きさにカットすることができる。

表面の清掃に便利な道具はこの他にアート・ガム、ビニルや粉末タイプのイレイサー; グルーム・スティック、柔らかなブラシが挙げられる。
拭き取りクロスやガラスのマイクロビーズも多孔性でないものの清掃に利用できる。

水または溶剤による清掃は事前に注意深くテストしてから行い、掃除機や他の機械を使って煤を除去した後に行える。
油っぽい煤は純水では除去しづらいだろう。
安全に使用すれば、保存品質の洗剤、界面活性剤、アルコール、または有機溶剤の希釈液を綿棒、柔らかなパッド、ブラシスポンジに染み込ませたもの、またはジェル、或いはそのいくつかを組み合わせて使うと効果的である。

臭気低減の方法はいくつかある。その選択は災害の大きさと予算による。
清掃した芸術品を煤のない風通しの良い場所に置くのが便利でコストもかからないが、場所と在庫の管理が必要になる。
臭気吸着チャンバーを炭や重曹、無臭タイプの猫用トイレ砂やゼオライト(粉末またはマイクロチャンバー(R)の紙がある)で作ることもできる。
高熱とオゾンを利用するサーマル脱臭法は、有機物を劣化させるため、望ましくない。

火災によって損傷したものの梱包と保管もまた、復旧の成功率を上げるために非常に重要なことである。
保管場所の相対湿度が55%未満になるよう、温度湿度を管理する。
救出後の収蔵品は、更に詳しく状態を確認し、保存処理実行の優先順位を付ける必要がある。

過去に発生した火災から芸術品を救出・復旧された方々の経験は、1990年にサスカチュワン州レジャイナのロイヤル・サスカチュワン博物館で発生した火災に関するJournalof the American Institute for Conservationの記事を参照されたい。
この記事はサラ・スパッフォードーリッチとフィオナ・グラハムによって書かれ、「パート1:救出、初期対応と災害プランニングにまつわる事柄」と「パート2:芸術品からの煤の除去と建物の復旧」とで構成されている。

スーザン・ダール

美術品のコンサバターでコレクション・コンサルタントのスーザン・ダールは、米国国内外の公共施設や私人にコンサルテーションや保存処置サービスを提供している。
文化施設に於ける天候、事故、人為災害を含む緊急時の措置が専門で、American Institute for Conservation Collections Emerency Response Team(AIC CERT=米国保存協会のコレクション緊急時措置チーム)にボランティア・メンバーとして所属している。
2005年のハリケーン・カトリーナの被害や2012-2013年のハリケーン・サンディの被害の直後にミシシッピ州で復旧活動にあたった。

加えて、ダールはFederal Emergency Management Agency(FEMA=アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)で、アーカイブの専門コンサルタントとしても働き、ハリケーン・カトリーナの被害を受けたニューオーリンズにある政府コレクションの復旧に携わった。
ダールは、ハリケーンや歴史的大邸宅の暖炉の故障と火災に関する対策行動、ニュージャージー州内の遺跡のための大規模な災害復旧プランなど、戦略的な災害復旧プランを作成する。
また、Heritage Preservation ConservationAssessment Program(CAP=遺産保護協会の保存査定プログラム)に、歴史的コレクションの緊急時及び一般的なアセスメント調査を提供しており、ハリケーン・サンディの被害の後は各地でこれを実施した。

ダールの講演やワークショップには、災害の査定、予防、備え、文化施設やギャラリー、私人が保有するあらゆる種類のコレクションの救出など、有益で実践的な情報が含まれている。
研修会や講演の一例は下記の通り。

  • Eugenides Foundation and The American School for Cultural Studies, Athens Greece, Disasters Preparation and Salvage for Cultural Institutions, Dec. 16-20, 2013
  • New York Archivists Roundtable, Disaster Planning for Archives and Their Communities, New York Archives Week Symposium, Oct. 2013
  • New York Council for the Humanities, After Sandy Workshop, June 2013
  • Delaware Valley Archivists Group: Disaster Triage and Recovery, Philadelphia, Dec. 2012
  • Society of Winterthur Fellows, University of Delaware, Winterthur Museum, Hurricane Katrina Response, Feb.2005
  • Pennsylvania Federation of Museums /Statewide Conferences, Disaster Response to Hurricane Katrina, Oct. 2006